大森林

 
     
 

 

 
     
 
 大森林。そこは、カイレル皇国、アルタード王国、カイ王国の三国に囲まれた森林地帯であり、国境線も定かではない。その生い茂る緑の中を銀色の巨人が進んでいた。
 16フィートはあろうかという巨体が日の光を浴びて白銀に輝いている。
カイレル皇国の騎士専用ガーディアン、プラチナ・ウルフである。その外見は兵器としては些か美しすぎるぐらいであった。
「まったく・・・・・一体なんでこの私が・・・・・」
 その巨人の中でトゥリーネは今日何度目かの言葉を呟いた。
 トゥリーネ・クライン。若干二十二歳にしてカイレル皇国の誇るプラチナ・ナイト(白銀騎士隊)騎士隊長である。額で綺麗に切り揃えられた金髪に、ややツリ目がちの目が彼女の意思の強さを感じさせる。彼女が『白銀の聖女』と呼ばれているのは名門クライン家の一人娘だからという理由だけではない。
「・・・・・あんな見習いのおもりなんて・・・・・。」
 トゥリーネはため息混じりに呟くが、それが当の本人たちの耳に入る事はなかった・・・・・。
 
     
     
     
 
「クレアーっ、そっちはどうーっ?」
「とくに〜なにもないわよ〜」
 トゥリーネのいた場所から1マイルほど離れた場所。同じような景色の中を二機のガーディアンが進んでいた。カイレル皇国で初めて量産された機体、ハウンドである。
 巨大な円筒形の腕を付けた方がもう一機に近づいて話しかける。搭乗者は、シリア・ラングフォード。頭の両脇で団子にした髪に、猫の様な目が快活な印象を与える。
「ん〜?わかんないけど〜、もし隊長に何かあったら私達じゃ〜どうにもならないと思うけど〜・・・・・」
 そう答えるのは、クレア・メイヘル。シリアより一つ年上だが、その話し方と幼さの残る顔によってそうは見えない。二人ともプラチナナイトの騎士見習いであり、中立地帯とはいえ哨戒任務中である。
「でもさぁ?何でアタシ達なんかに隊長みたいなスッゴイ人が付いたのかな?」
「さぁ〜?私も言われて来ただけだから〜」
 シリアの疑問にクレアも首をひねる。はしゃいで話す二人の顔には任務中といった緊張感は微塵も感じられない。
「そりゃそうだね!」
 屈託の無い笑顔で返すシリア。さらに思ったことを口に出す。
「それにさ、プラチナ・ナイト騎士隊長が直属の上官って事は、それだけアタシ達の腕が買われてるって事じゃない?」
「・・・・・そうかしら〜?・・・・・」
 クレアの疑問も尤もである。二人とも士官学校での成績は下から数えた方が早かったのだから・・・・・。
 
     
     
     
 

 大森林の中はその広さと複雑な地形から、大部隊での侵攻は難しいとされていた。それは結果的に、この森を3国に囲まれながら小競り合い程度しか行われない奇妙な中立地帯にしていた。騎士見習いが経験を積むには丁度いい場所であろう。
 トゥリーネがそんな事を考えていた時、それは不意に目の前に現れた。いや、正確には『それ』ではなかったのだが、考えるよりも先に体が反応していた。気付いた時はプラチナ・ウルフはその小柄な『少女』の体を掴んでいた。
「θヽξ!ηζゞ!」
 少女は意味不明な言葉を叫びながら必死にもがくが、巨大なガーディアンに対してそれは何の意味も成さなかった。
「・・・・・この娘?・・・・・蛮族か?・・・・・」
 鮮やかな緑色の髪に聞きなれない言葉、体の各所には化粧なのか赤や白の線が引かれている。
 かつては大陸全土に繁栄していたという先住民、ゼムート族。だが、今ではその名も人々の記憶から消え去ろうとしていた。
「こんな所に、まだ生き残りがいたのか・・・・・」
 そうトゥリーネが呟いた瞬間、目の前を闇が覆った。

 ガギィィィッ!!

 トゥリーネは一瞬何が起こったのか理解できなかった。
 機体に衝撃が走ったかと思うとプラチナ・ウルフの左腕が肘からなくなっていた。カイレル皇国でも最高のナイト・ガーディアンの腕がである。
 まるで爪で削り取られたかのような傷跡と、地面に転がった自分の機体の左腕。驚くトゥリーネの視線の先にそれはいた。

 
     
 

 
     
 
 さっきの少女を腕に抱いた黒いガーディアン。
 それはトゥリーネも見たことのない機体であった。肩と腕には緑色の光球、額の両脇からは2本の角が張り出している。肩と足首には白い毛皮が巻かれ、体の各所にはまるで刺青の様に赤い紋様が走っている。そのガーディアンが発する威圧感のようなものからか、何故かトゥリーネは蛇に睨まれた蛙のように動く事ができずにいた。
 黒いガーディアンはトゥリーネに一瞥をくれると、少女を腕に抱えたまま、再び森の奥へ消えていった・・・・・。
「・・・・・あ、あれは・・・・・いったい・・・・・」
 トゥリーネは額から流れ落ちる汗を拭う事も忘れて、ただ呆然と森を見つめていた・・・・・。

「隊長ーーーっ!こっちは何もないでーーーす!」

 遠くからシリアの場違いに明るい声が聞こえてきたが、トゥリーネの耳には何も入ってはいなかった・・・・・。

 
     
 

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